インストール・ハニー
「バイト、バイトって何? どこか行くのか」
あ、あたし今、少しだけ「うざいな」って思った。ごめんね。
「アルバイト。働いてお金稼ぐの。王子様は自分でお金稼ぐことなんか無いんだろうけど。あたしは買いたい物もあるし。お小遣い稼ぎだよ」
「へぇ。俺はお金なんてあまり必要無いからな。どういうシステムなのかも分からないし」
ああ、このスマホの向こうでは別な生活しているんだものね。
「お給料制なの?」
「よく知らない。覚えてない」
覚えてないだなんて……適当なのねわりと。まぁ生活に困って無さそうだし、別に良いのかな。
「それより、バイトってどこに行くんだ? 毎日?」
「毎日じゃないけど……あと、一海の家がペンションだから。そこでバイトなの」
お盆期間中だったら、忙しくなるかもしれない。ペンション「サンライト」は食事のみでも利用できるレストランスペースがあるので、そこのウエイトレスが主な仕事。ま、まだ高校生だから簡単なことしかやらされてないけど。
一海は料理の説明をしながらお出ししたり、オーダーをメモ無しで取ったりできる。凄い。
もうすぐ学校に着く。遠回りをして、楓をスマホに戻してから校門を通るようにしている。色々苦労するんですけど……だって目立つから。だから学校まで一緒に行って、見送って貰ったのも初日だけ。佐山さんも寄って来ないなぁ。もう飽きたのかしら。できればそうであって欲しい。
たまに、ごくたまにだけど、大学生の彼氏に送ってもらって登校する子が居る。遅刻しそうだったのかもしれない。先生に見つかると面倒だから、離れたところで降ろして貰っていた。
いいなーと思ってそれを見ていたけど、あたしもそんな気苦労を抱える日が来るなんて。
非現実的なことで、だけど。