インストール・ハニー

「夏休み終わったら彼も帰るから。外国に住んでるし、いまちょっと休みで居るだけで」

「ええ、帰る? 一緒に住んでるの?」

 墓穴を掘るとはこういうことを言うんだな。あたしは、なんとか佐山さんの気持ちを削ごうと、夏休みだけという限定感と、外国に住んでるから物理的に離れてますよ感をぶつけたのに、うまく行かなかった。外国ってどこ? イギリス? イギリスっぽいし。

「う、うん」

 ああ、認めてしまった。一緒に住んでることを。

「そうなんだぁ~彼、名前なんていうの? 夏休み終わる前に山都さんの家に遊びに行こうかな」

 うわぁ! なんで!

「やめなよ佐山さん。あの人、青葉の彼氏なんだよ」

「えっ」

 あたしの顎が前に出た。言ったのは一海だ。佐山さんも変な顔して見てる。

「そ、そうなの……」

「そうなの! もうラブラブなんだから。ねー」

「……ちょっと一海」


「はーい! 着席ー!」

 ドヤ顔の一海の腕を掴んだ時、先生が教室に入ってきた。会話は強制終了。なんとも言えない表情の佐山さん(&愉快な仲間達)はプイッと自分の席に戻って行ってしまった。
 一海がエヘヘ、っていう顔をして自分の席に戻ったから、あたしも着席する。

 もー! なんだよ彼氏とか言うなよ。他に聞いてる人居たら困るだろー!

 焦ってしまった。彼氏でも恋人でもないわけで。ああ……でもキスしちゃってるしな……どうなんだろう……頭痛い。

 あーもう、一海に楓のバイトのことを言うタイミング無くなったじゃないか! 今日は終業式で午前中だけだから、帰りでも良いか……。

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