インストール・ハニー
 ポケットの中の、スマホに手をやる。呼び出されていない時でも外の会話が聞こえるとか、あたしの心の声が聞こえるとかいう変な機能が無くて良かった。

 楓が、見た目と感じが普通の男の子だから、一緒に居られるのかもしれない。普通の、あたし達と同じような人間かどうかは別として。


 体育館での退屈な話を聞いて、あくびを噛み殺して終わる終業式。あとは帰るだけ。

「一海、ちょっと良い?」

 あたしはもう楓のことで頭がいっぱい。紹介しなくちゃいけないし、バイトお願いしたいし。夏休みだしバイトだし高校生って忙しい。

「帰り、アイス食べてこー!」

 一海はもう夏休み気分だ。アイスは分かった。それはあたしも食べたい。楓も食べるかなぁ。その前に、やることやらなくちゃ。

「ちょっと、話あるんだけど」

 頬を上気させてる一海を呼び止めた。楽しそうだけどごめん。

「あの彼、紹介したいんだけど」

「あの? あああの彼ね。やったぁ。イケメン拝めるね」

「帰り、途中で待ち合わせしてるから」

 ああ、どこで出そう。学校に戻るか……いやそれはだめだ。コンビニでも寄ってて貰って、それで連れて来るか。色々不便があるなぁやっぱり。

「彼、名前なんていうの?」

 校門へ向かって歩きながら、一海が聞いてきた。

 夏休みの宿題をたんまり抱えて、でも気分はウキウキで、何をしようか、誰と会おうか。部活がある人は練習試合があるとか、明日から普通に登校するのと一緒とか愚痴を言うとか。そんな生徒達の思いが校門から吹き出しそうだった。マイナスの感情じゃなく。

「ええと……楓、って言います」

「なんで敬語」

「なんとなく」

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