インストール・ハニー

 横断歩道の向こう側に、コンビニがある。信号が青に変わった。あたしはスマホを取り、電話をかける仕草をした。

「あそこのコンビニに入ってちょっと待ってて。楓、近くまで来てるんだけど連れてくるから」

「場所分かんないんじゃない? あたしも行こうか?」

 それは困るので普通にマジであそこに居てお願い本当に。

「だだだ大丈夫だからごめんあとでアイスおごるから」

 早口になってしまった。動揺しないで普通に言えばいいけど。うう。

「んじゃーおごられようっと。待ってるね」

 手を振って一海が横断歩道を渡っていった。とても軽やかに。可愛い子だなぁ。ああいう風になりたいわ。海と砂浜と白いワンピースが似合うような。あたしはどっちかっていうと座敷犬みたいな……あ、座敷わらし?

 なにこのマイナスの奈落。落ちきってしまう前に楓に会おう。今朝はちょっとしか話してないからな。昨夜はいつもの様にお茶しながら話したけど。お茶しながら。まるで女子会だ。

 ぷっと笑いがこみ上げる。ああ、こんな思いにふけってる場合じゃなかった。楓を呼ばないと。

 キョロキョロと見回し、民家の間に細い道を見つける。あそこは人の家の敷地内かもしれないけれど……10秒だけ貸してください。スマホを握りしめて小走りにそこへ向かった。楓、今日も暑いよ。

 そこの道は奥でどん詰まりになっていて、誰も居なかった。もう一度見回して、本当に誰も居ないことを確認する。よし前方後方OK!

 呼び出し実行。いつものように、温かい光が舞い上がる。すると、白いシャツにデニム姿の楓が現れた。

「おはよう、青葉」

 今朝と違う服装だったから、お着替えしたんですか。相変わらず爽やかですね王子様。

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