インストール・ハニー
「ああそうだ」
あたしは思い出して声を出した。そうだ、大事なことを忘れていた。
「どした」
「サンライトでさ、バイト1人雇わない?」
「え? うち? どうだろ。親に聞いてみるけど」
まぁそうだよね。一海の両親が決めることなんだけど。
「青葉の友達? あたしの知ってる人かな」
一海は皿のクッキーを摘んだ。麦茶が空だ。持ってこないと。楓もおかわりかな。
「まさか、佐山さんじゃ……」
「いやいや、この人」
あたしが楓を指さすと、一海の大きな目がますます大きくなった。
「分かりました。あたしが面接したってことで、採用です」
「は」
一海が楓に向かって握手を求めると、楓はその手を取り、ガッチリと握った。男と男の約束みたいな力強い握手。
「えー、良いの? オーナー達に聞かなくて」
一海のお父さんのことは、あたしは普段「オーナー」と呼んでいる。お母さんは「ママさん」だ。
「もちろん言っておくよ。青葉の彼氏イケメンだから夏休みだけ雇おうって」
「いいのか? 本当に」
「いいよ。実は、夏休みは忙しいから、もう1人バイト欲しいかもねって言ってたんだよね。お前のクラスメイトで誰か居ないかって聞かれたことあったもん」
「そうなんだ」
「じゃあ決まりだな。よろしく一海」
だから呼び捨てかって。