インストール・ハニー
「さーて、そろそろ帰るかな」

 一海がスマホの時間を確かめた。うちもそろそろ健太郎かお母さんあたりが帰ってきそうな時間だ。

「じゃあ、明日からよろしくね」

「こちらこそ」

 一海と楓。2人とも仲良くなってくれて良かった。どうなることかと思ったけど。

 一海を見送り、また部屋に戻る。まだ誰も帰ってこない。

「バイト決まって良かったね。心配だったけど……」

「これで青葉と一緒に居られるな。嘘も方便だ」

 一緒に、ね。

「たぶん力仕事メインだと思うけどね。忙しい時は猫の手も借りたいと……」

 そこまで言った時、手を掴まれた。

「青葉」

「な、なに……」

 急に真面目な顔をするから、驚いてしまう。

「さっき、おかわりは紅茶が良いって言ったのに、麦茶持ってきた」

 え? そう……だったっけ。

「ごめん、忘れてた。考えごとしてて……」

「なに、考えてる」

 一海が帰ったからって、急に雰囲気変えなくたっていいじゃない。なんだか、悪い男に見えてしまう。

「俺のこと、彼氏じゃない? 恋人じゃないか」

「……違うじゃん……あたし達、なにも」

 楓はあたしの手を離した。触られていたそこは、とても熱い。外は暑い。ここは熱い。もう、なんなのよ。

「キス、しただろ。したのに」

「それで……そうなるのかな……」

 キスは、どういう意味を持ってる? あたし達は、どんな風になっていくのが理想で正解なの? そんなの、分からない。

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