インストール・ハニー
「ここに居てよ……。一緒に居ようよ。静かにしてれば大丈夫だし」

 楓は一緒に居たいって言う。それはあたしも同じ気持ちだった。楓と一緒に居たい。

「俺オナラするかもしれないぞ」

 は? なにを言い出すんだこの人。

「し、していいよ!」

「誰のオナラって言われたら?」

「あたしがしたって言うもん!」

「ぷっ……あははっ」

 あたしは笑えないけど、楓が笑顔になったから、ほっとした。

「そっか、じゃあ居るよ。夕食は食べておいで。俺は本でも読んでるさ」

 本棚を指さす。マンガ本がほとんどだけどね……。まだ誰も帰ってこないけど、呼ばれるだろうからご飯食べたら速攻で戻ってこよう。もっと一緒に居たい。許されるなら、このままずっと居たいんだ。

「夕食食べたら、買った水着、着てみてよ」

「バカ!」

 誰も居ない家だったから、大声で笑えた。楓の笑顔が、あたしを癒してくれる。そして染まって、あとはどうなるんだろう。分からない。でも一緒に居たい。今年の夏だけじゃなく、秋も冬も、来年の夏も。

 そう思うと、胸がまた痛かった。

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