インストール・ハニー
 あたしの思いを知ってか知らずか、楓がそんなことを言う。なんかもったいないような気がするけど、宿題はやらなくちゃいけないし。楓がそう言ってくれるなら……。

「俺、どれかひとつやろうか?」

「いい、自分でやるよ」

 何回も言われるから、頼みたくなっちゃうじゃないか。まさに甘い囁きだな。悪魔の囁き。

「そ。じゃあ俺は漫画本読もう。いつの間にか寝てしまって、続き読みたい」

 さっきの少女漫画か。やっぱり1巻から読んでいたんだ。

「それ、連載中だからまだ途中までしか出てないよ?」

「え、そうなの? ……12巻まである。終わりじゃないのか」

 本当は12巻以上出てるけど、まだ買ってないだけ。バイト代が出たら買おう。

「続き出たらまた読めるから」

 続きが出たら。そうだよね。そう思って過ごそう。暗くなっても仕方がない。

「大丈夫だよ」

 自分に言い聞かせるように、楓にそう言った。信じよう、この先を。続きを。あたし達は繋がったばっかりじゃないか。

「青葉」

「なに?」

 楓が机から移動してくれたので、あたしは課題をやることにした。教科書とノート。それと筆入れと。

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