インストール・ハニー

 面倒くさそうに言って、天井を見上げる。「ちょっと」とスマホから声がする。

「ちょっと君」

 あ? あたし?

「名付けはあとからで良いから、その前に。ここ窮屈だから、そちらへ呼び出してくれないだろうか」

「は?」

「呼び出すの、コマンドを選んでタップして。俺さ、喉も乾いたし。呼び出してよ」

 なんか言ってるけど。言われるまま「呼び出す」に中指を当てた。

「……?」

 画面が、いっそう強く光った。

「う、わ!」

 眩しい、そう感じた時にはもう目が開けられなくて、あたしと部屋が光に包まれた。

「あ……あ……」

 この状況を、なんと説明しよう。

「あんた、誰?」

 あたしの部屋。可愛いものに囲まれていたかったから小物には気を使っていて、あと掃除もするからわりと綺麗にしてるほうだと思う。
 男子は、弟とお父さんしか入ったことがない。
 眩しい光に目潰しを食らい、閉じた目を開けた時、視界が戻るまでややしばらくかかった。

 まず認識したのは、何かが部屋に現れたこと。そして、それが人の形をしているということ。この間、あたしは何回まばたきをしただろう。
 更に、それが男性であること。この時点であたしの視界回復率97%。ほぼ戻っていますね。そうですねたぶん。視力は良いもの。

 すらりと背の高い、栗色の髪が柔らかそうな、男の子。
 それが、部屋の中に居る。あたしの部屋に居る。6畳のこの部屋に。マジか。男子が居るんだけど。立ってる。
 つーか、スマホから出てきた! 

 あたし、よく叫ばなかったな。驚きと衝撃とショックがいっぺんに落ちてきて、口だけパクパクさせていた。

「あ、んた、誰?」

 もう一度聞いた。

「誰とは、名前か? それは君が今からつける」

「いや、名前っていうか、なんていうか。は? つける?」

 左手の人差し指に石が1つ付いているシルバーの指輪をしている。石の色は青かった。
 人だよ。これ人間でしょ? なんでこの部屋に? 出てきた!?

「……何者かと聞かれれば、王子だ。そのゲームアプリの王子役」

 ……あたま、いたい。眩暈がする! 目蓋が痙攣する。この人、あたしが持ってるスマートフォンを指して言った。あたしの頭の配線飛んだかな。

 なに? なにこれ。ちょっと。

「おーじ? 自分で言った今。……王子ってなに」

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