インストール・ハニー
「けっこうね、苦労してるみたいだから。楓は」
分かったようなことを言うな、あたしも。楓が覚えていないのだから聞けるわけないんだけど、よく考えればあたしは楓のことをなにも知らないんだ。
一海はカウンターに頬杖で、口を尖らせた。
「そうなんだ。もううちで雇いたいからずっと居ればいいのに」
「そうだよねー」
「2人、早く結婚してさ、レストランの方、任せるからさー」
一海は勝手なことを言っている。それって楽しそうだけど……。
そろそろ15時を回る頃だった。昼食の客足が途切れ、お茶の時間の頃。店内に客は居なかった。すると、入口のベルがカランと鳴った。
「いらっしゃいま……」
笑顔を作り、席をご案内しようと向かったら、驚いた。
「こんにちわ」
「佐山さん……いらっしゃい」
青いミニスカートとサンダルで、佐山さんが現れた。びっくりするなーもう。ああ、楓に会いに来たのねたぶん。
「1人なんですか?」
佐山さんの取り巻きが居なかった。1人で来るなんて珍しい。ぞろぞろ連れてくれば店の売り上げにもなるのになー。なんて、いじわるを言ってみたりして。
窓際の、眺めの良い席へ案内した。佐山さんは暑そうにハンカチで額を拭い、ふうと息をつく。相変わらず、つけまつ毛バッチリですね。(汗だくで化粧取れそうだけど)
「うん……暑いねー。コーラください」
「ケーキ、チーズケーキ美味しいですよ。シャーベットも付いてるし」
「そうなんだ! じゃあチーズケーキも」
「ケーキセットにしますね」
あたしはケーキセットを厨房に伝え、コーラの用意をした。