インストール・ハニー
「会いたくなったら、コマンドで呼び出すと良い。いつでも駆けつけよう」

「会いたくなったら……ですか」

 突然出てきて、そんなこと言って。困った。本当に困った。

「俺の存在理由だからな。その為に居るんだから」

「王子様……大変ですね」

「君の為だ。それはそうと、君の名前はなんという?」

「……青葉、です。山都 青葉。」

 なんで自己紹介してるんだろう。その涼しげな視線を見ていられなくて、あたしは下を向いてしまった。

「アオバ」

 一言ずつ、彼は口にした。

「青い葉の、青葉。漢字……分かる?」

「分かるさ。良い名前だ」

 そっと彼の顔を見ると、にっこり笑っている。そんな顔して笑うのか。

「青葉。しばらく世話になる」

「はぁ」

 すげぇ。この有無を言わせない感じ。さすが王子。……いやいや!! 納得してる場合じゃないよ。なんなのよ、こんな。

 アプリをインストールしたら、スマホから王子様が出てきたとか、ダメだよそんなの。マンガかっつーの。アニメでも見ないよそんなの。何の乙女ゲームだよ。

 ああ、分かった。あたし失恋のショックでおかしくなったんだ。夢かもね。朝が来れば、覚めるんだよ、たぶん。

「何をブツクサ言ってる」

「あ……うう」

 キリッとした涼しげな目を向けられ、言葉を無くす。あなたこそこの状況に順応し過ぎなんですけど!

「とにかく、だ。紅茶かなんか、飲みたいのだが。喉が乾いて」

 えー。あたしは記憶を辿り、たしかキッチンにいただき物の紅茶があるのを思い出した。うちのティーバックの紅茶、王子様の口に合うのかな。
 いやなんか、王子様とかって自分で言ってるしあたしも。

「他人にあまり見られるのも良くはない。だから、コミュニケーションを取りたい時や1人の時、周りに人が居ない時のほうがいいな、俺を呼び出すのは」

「はぁ」

 日本でも売ってそうな白いシャツ。その襟元を直しながら彼はそう言った。どこで買ったんだろうそのシャツ。

「それと、君が戻さないと俺はそこに戻れないから。よろしく」

「も、戻す……」

 彼のひとことひとことが、混乱を招く。あ、スマホから出たんだから、スマホに戻すってことね。スマホに戻す……戻す……。はぁ?

「段々覚えて行けばいい。分からなくなったら聞くこと。いいね」
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