インストール・ハニー
「楓くん、夏休み終わったら帰るんだもんねぇ……寂しくなるなぁ」

 一海のその言葉に、誰も答えない。あたしも分からない。どうなるか知っているのはたぶん楓だけ。

 でも、秋も、来年も……来年。楓と一緒に居られるのかな。楓はどうするんだろう。

 一緒に選んだ水着。3人で遊んだこの夏の記憶。来年も、その次もこうしていたい。楓が置かれている立場とか状況とか、離してくれないしよく分からない。でも、このままでいたい。あたしは、楓と一緒が良い。



「あ、あおば……!」

 掠れた声が聞こえた。楓だ。

「なに? どした?」

「……」

 なにかあったのかと思ったけど、楓は浮き輪にうつ伏せで乗って浮かんでいる。どうしたんだろう。

「どうしたの?」

「いや……」

 うつ伏せでこっちを見て、また顔を戻す。海の底を見ているようだ。

「こうやって見てたら、すーって影が来て、海亀だって思ったら……自分と浮き輪の影だった……」

 ……は? ウミガメ……。

「ぷっ……アッハハハハハ!!!」

「なんだよ、笑うなー」

「だってぇ、楓おかしー」

「だってそう見えるんだよ、ほら見てみろって」

 楓が言うので、下を見てみる。ゆらめく海面の向こう。白い砂。それに影が……。

「……ウミガメだ……」

「な! そうだろ。図鑑でしか見たことないけど」

「あたしもだよ! でもこの影は楓だけどね」

 笑いが止まらない。楽しい。

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