インストール・ハニー
「あ、お魚ちゃん居る!」
一海がちょっと離れたところに居て、声を上げた。
「わー見る見る」
「魚が居るのか!」
あたしは息を止めて潜った。じっとしてると、小さい魚がすーっと泳ぐ。
「潜ると見えるよ。潜れる?」
「おお、俺も男だからな。泳げるんだよ」
男だから泳げるって意味が分からないけど、浮き輪に乗ったままで説得力無いです楓くん。
浮き輪から下りて、息を吸い込みザブンと潜る楓。あたしも追いかけて潜った。海の中で、人差し指を立ててシーッとやる。少しじっとしてると、小さい魚が2匹、急いで泳いで行った。見た見た! みたいなジェスチャーをする楓。また見たわ魚!
人間がエラ呼吸できたら、ずっとこの綺麗な海の中を見ていられるのになぁ。あ、シュノーケル持ってくれば良かったのかも。
腕を捕まれた。
楓が手を伸ばして、あたしの頭に手をかける。ぐっと引き寄せられた。水の抵抗のせいで、スローモーションみたいに。
太陽の光が入って、キラキラの海。白い砂には海亀じゃなく2人の影が映って、魚も泳いでいる。影は重なって、唇が触れ合う。しょっぱいキス。海水の温度より、楓の唇は温かい。繋いでいたい手。あたしは、楓が好き。
今度は、伝えなくちゃいけないね。この手を繋いだままでいるために。