君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
結論から言うと、その夜の食事は、ふたりきりとはいかなかった。
赤い目で戻った私に目ざとく気づいた堤さんが、状況を察して無理矢理くっついてきたからだ。
「これで貸しをチャラにしてやるって言ってるんだから、悪くないだろ」
「そもそも、借りを作った覚えがない」
「じゃ、大塚さんに貸したのかな、僕?」
「こいつに絡むな」
はあ、と息が出る。
せっかく久しぶりにいろいろな話をしようとしたのが、パアだ。
まあ、このふたりが、前ほど険悪でなくなったのは、嬉しい。
堤さんの仕事のやりかたも、たぶん、昔ほど露骨ではなくなっているんじゃないだろうか。
これは、ただの期待だけど。
「それよりさ、大塚さん」
ワイングラスを片手に、堤さんが意味ありげな笑みを浮かべる。
「例の、コンペの時にスパイをした奴ってね、新庄の同期で、クリエイティブの女の子なんだけど」
えっ、女の子だったの。
「あのプライドの高い子を、いったいどうやって言うなりにしたのか、僕、ずっと気になっててさ」
そのへんの説明って、してもらった?
にこりと笑って、そう言う。
堤! と新庄さんがあせったような声を出す。
そんな新庄さんのほうが意外で、私はあっけにとられた。