君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
金曜ということもあり、かなり深くまで飲みは続いて。
一番家が遠い人の終電が近くなって、ようやく解散した。
このあたりはいくつかの駅が集中しているので、めいめい自分の駅へ向かう。
「大塚さんは、どの駅?」
「見附です」
「じゃ、一緒だ」
えっ、と言いそうになるのを、こらえる。
堤チーフと、駅までふたりか…。
「堤さん、お住まいは」
「初台」
白い息を吐きながら、並んで歩く。
堤さんは、社交的で、ユーモアもあるんだけど、どこか得体が知れなくて。
ふたりきりだと、何を話していいかわからない。
「何か、身構えてる」
「え…」
顔を上げると、いつもの笑み。
「新庄といる時は、もっとくつろいでたのに」
堤さんの意図がつかめず、何も返事ができない。
「妬けるね」
聞き間違いかと思った。
だけど、堤さんの顔を見て、そうではないと確信する。
なんと答えていいかわからなくて、逃げるように前方に目をやった。
すると、同じく飲み会の帰りらしい、ビジネスマンの一団が目に入って。
長身の一人が着ているハーフコートに、見覚えがあるな、とぼんやり考えていると、向こうもこちらに気づいたそぶりを見せた。
堤さんが、くすっと笑う。
「噂をすれば」