君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
何度目かのキスをされる。
新庄さんのキスは、いつだって唐突で、私はそのたびに翻弄される。
会社帰りに、夕食をどうですか、と誘ったダイニングバーを出た直後だった。
雑居ビルの3Fから、下りのエレベーターに乗った瞬間、腕を取られる。
新庄さんのために「開」ボタンを押していた私は、慌てて「閉」ボタンに押し替え。
ドアが完全に閉まる前に、唇はふさがれていた。
行き先階のボタンを押していないエレベーターはしばらく沈黙して、押すようにとアナウンスをする。
唇を合わせたまま、私の背後のボタンに新庄さんが手を伸ばしたのがわかった。
深くはないけれど、熱っぽいキス。
だけど決してその先を期待させない、絶妙な距離感。
1Fに到着し、ドアが開きはじめる前にあっさりと唇は離れる。
何事もなかったように降りていく背中に、私は恨みをこめてため息をついた。
「何考えてるか、当ててやろうか」
追いついた私に、新庄さんが言う。
「いいです」
どうせ当たるから。
自然と声は不機嫌になり、それを見て笑う新庄さんが憎らしくて、私はじろりとにらみ返した。