君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「500円くらいで、見た目もそこそこって、なかなかないよねえ」
「去年もけっこう苦労しましたよね」
アシスタントの桜井さんと、ショッピングモールの特設ブースを歩く。
色とりどりの商品で埋めつくされたブースは、ランチタイムを利用してやってきた女性たちでごった返していた。
「最近異動が続いたから、何人いるのかわからなくなっちゃったよ」
桜井さんが、たいして困ってもいないふうに、明るく言う。
私より少し年上で、おっとりと柔らかい雰囲気の、なんと二児の母だ。
毎年この時期には、部署の男性たちにささやかなプレゼントをするのが習慣になっている。
くだらないと嫌う女性もいるようだけど、私はこういうイベントは、わりと好きだ。
6部に女性は、私と桜井さんのふたり。
出費は大きいけれど、そのぶん、お返しが豪華なのも、なかなか嬉しい。
「ね、堤チーフって、どう?」
桜井さんが、興味を隠しもせず、訊いてくる。
6部には彼女をふくめて3人のアシスタントがいて、経理や営業補佐業務を専門としている。
営業が外に出てバリバリと仕事を取ってこられるのは、彼らのおかげなのだけど、勤務体系が違うこともあって、意外と接点がない。
だから、こういう機会は、貴重で嬉しい。
「今のところ、チームが違うので、よくわからないんですけど」
切れ者っぽいですよね、と無難に答えた。