君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「私、この間経理システムの入力ミスっちゃったんだけど」
思い出すように、宙を見あげて桜井さんが話す。
「堤さんに指摘されて、すぐ直しますって言ったら『もう直しておきましたから』って。爽やかだよね~」
「言いそう、言いそう」
そうだ。
そこなのだ。
新庄さんと堤さんの「違い」は。
無事、人数分のプラリネを予約することができ、胸をなでおろす。
会社に戻る途中、夫婦のイベントってどんなものなのか気になって、訊いてみた。
「毎年あげてるよ、チョコとプレゼント。今年は選び中。恵利ちゃんは?」
私は、うーんと首をひねってしまう。
「あげる相手が、いるような、いないような…」
桜井さんが、グレーだね、と笑った。
バレンタインは、明後日に迫っている。
彩は、どうするんだろう。
向こうが忙しいおかげで、あれから一度も会えていない。
その後、どうなったんだろう。
私は、どうしよう。
わざわざ何かをあげるために誘い出すのも、どうかと思うし。
そもそも贈ったら、受け取ってもらえるんだろうか。
当日、偶然会えたら渡せるように、軽いものでも用意しておこうか。
また、微妙な距離なのを実感して、ため息が出た。