君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「あたしが不倫なんかに無駄なエネルギー使うわけ、ないでしょ」
「そうだけどさ…」
ただごとでない雰囲気だったし、と缶を傾けながら、ぶつぶつ言い訳をする。
「一緒に暮らそうって、言われたの」
「大森さんって、いくつ?」
38、と答えが返ってくる。
ひと回り上だ。
「向こうの年齢もあるし、つきあった時点で、もちろん結婚を考えてなかったわけじゃないけど」
「いざ言われたら、テンパったと」
うむ、と彩が神妙にうなずく。
彩は、実家から通勤することもできるけれど、自活したいと言って、大学卒業と同時に一人暮らしを始めた。
その部屋には今きっと、逃げ回る彩をつかまえるために、大森さんが行っているのだろう。
「今日、デートだったんだね、ごめん」
「いいよ、また会うし」
そういえば、いつでも渡せるようにとバッグに入れていたチョコレートを、すっかり忘れて持って帰ってきてしまった。
週末、渡さないと。
ふと見ると、明日も会社とは思えないペースで飲んでいた彩が、うとうとしている。
横にして毛布をかけると、テーブルの上をざっと片づけて、私も寝る支度をした。