君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
『悪い』
新庄さんが、申し訳なさそうに言う。
「大丈夫です、それより、お気をつけて」
ああ、という短い返事を最後に、電話は終わった。
「電話、新庄さん? ねーこのワンピ、言い値で買うよ」
彩がバスルームから話しかけてくる。
着替えのない彩に、身長が違ってもあまり問題のないワンピースを貸したところ、思いのほか気にいってくれたようだ。
しばらく持ってていいよ、と答えて、ため息をついた。
土曜日の約束が、ダメになってしまった。
「ゆうべ、母方の親戚が亡くなったんだって。大叔父さんって言ってたかな」
「で、お通夜が明後日か。遠いの?」
「浜松」
駅に向かいながら、彩と話す。
途中で彩が寝てしまったので、結局あんまり話せなかったけれど、今朝の彩は、少しすっきりした顔をしていた。
気持ちの整理が、ちょっとでもついたのなら、いいんだけど。
「あまりつきあいはないらしいんだけど、そっちの親戚が集まると、朝まで飲むハメになるんだって」
「そりゃあ、日曜にずらすのも厳しいね」
「日曜は、元から予定があったみたい」