君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)

「恵利、大丈夫?」



その場から動くこともできない私を、秀二が心配してくれる。



「あれ、彼氏?」



私は立ちすくんだまま、首を振った。



「じゃあ、なんだよ」



私が訊きたい。

なんなんだろう、本当に。



「かっこいい人だったね」



車も、と能天気に秀二が言う。


涙がにじんできて、それを指でぬぐいながら、でしょ、と自慢すると。

好きなんじゃん、と秀二が笑った。


そうなの。

好きなんだよ。



「誤解、解いたほうがいいよ」



どう見ても、お泊まり明けの図でしょ、俺たち、と互いを指差して言う。



「でも…」



誤解されるとか、それを解くとか、そういう関係ですらない気がして。


喪服だった。

たぶん朝早くに向こうを出て、用事の前に寄ってくれたんだ。


それなのに。

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