君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「月末に予算案がまとまるので、来月頭にはお返事できると思います」
「お待ちしてます」
「今回、いい提案をけっこういただいたので、僕としてはいくつかやりたいの、ありますから」
あとは頑張って、うちの社内を通します。
クライアントの雑誌担当である、小出さんが張りきった声を出す。
小柄でおしゃれで、明るく染めた髪をツンツンと立てている小出さんは、外見だけならメーカーというよりアパレル系だ。
今日も、ストライプの際立つスーツに、わざと幅広のネクタイをして、にこにこと快活に喋る。
私は、ぜひお願いします、と笑って退室した。
やるべきことはやったし、後は先方の判断に任せるだけだ。
ビルを出ながら、携帯を開く。
ここ数日、くせになっている。
何度見たって、新庄さんからの着信はないのに。
折り返し電話をくれないことなんて、これまでなかった。
どんなに遅くなっても、こちらが連絡をしておけば、必ず応えてくれていた。
『出直したほうが、いいみたいだな』
あの低い声を思い出すと、震える。
私に、なんの期待もしていない声。
機嫌を損ねてすら、いなかった。
説明とか、言い訳とか。
そんなもの。
聞いてもらえる、気がしない。