君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「そうして見つけた僕の企画の穴を、徹底的にやっつける、あてつけみたいな企画を出して、優秀賞をとったわけ」
最優秀賞は、出なかったね、あの年は。
長い指で煙草をもてあそびながら、軽い口調で言う。
「散々だったよ、お偉方の前で恥かかされて」
新庄さんは、黙ってそれを聞いている。
新庄さんは、事をスムーズに運ぶために、裏で画策することはあっても、それが誰かの損につながったり、立場を悪くしたりすることなら、絶対にしない。
その新庄さんが、人前で、誰かに、恥をかかせた。
「つまり結局、俺と同じことをしたんだよね」
「そうでもしなきゃ、お前には効かない」
「大義名分があれば、いいんだ」
新庄さんが、黙る。
たぶん新庄さんにしても、相当に自分の信念を曲げてやったことで、こうして蒸し返されるのは、耐えがたいんだろう。
テーブルに置かれた手は、強く握りしめられている。
「何か言いたそうだね?」
堤さんが、ふと私を見て、微笑んだ。
新庄さんは、私を見ない。
そのおかげで、逆に口を開く勇気を得る。
「…堤さんは、何かを失ったみたいに、言いますけど」
違いますよね。
そう言うと、新庄さんが一瞬、こちらを見た。
「なりふりかまわず取りに行ったものが、手に入らなかっただけ、でしょう…」