君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「ご存じないんですか」
新庄さんが、首を振る。
「大森マネージャーとは、入れ違いだったんだ」
「大森さんが、どうしたって?」
突然、背後から聞こえた声に、うわ、と新庄さんが珍しい声を上げた。
「なんだ堤、こんなところで」
「煙草買いにきたんだよ、そっちこそ」
ふたりして、何? と交互に指を差す。
このフロアは、医務室と、小さなコンビニと、ビルの管理会社の事務所などがあるだけで、普段はほとんど用のない場所だ。
「堤さんて、吸われるんですね…」
「たまにね。バカみたいに四六時中吸っては、いないよ」
悪かったな、とつぶやいた新庄さんが、何かに気づいたように、堤、と顔を上げた。
「お前、大森さんの携帯、知らないか」
「そりゃ知ってるよ、元上司だもん」
そうか、そのルートがあった。
「教えてもらえないか。事情は、えーと、話せたら、後で話すから」
なんの約束にもなっていない新庄さんの言葉に、堤さんはあっさり、いいよ、と答えて携帯を開いた。
「事情は興味ない。新庄に貸しを作れる機会なんて、めったにないし」
俺の借りなのか、と低く毒づく新庄さんをよそに、堤さんが番号を表示してくれる。
私はそれを受けとって、もう一度受話器を取りあげた。