Catch-22 ~悪魔は生贄がお好き~
 圭斗が教室を出れば、廊下では意外な人物が微笑んで出迎えた。
 女生徒達にちらちらと見られても全く気にした様子もなく、そこに立っている。
 目が合って、その神々しくも見える笑みを向けられた瞬間、圭斗は思わず舌打ちして顔を逸らしたが、無駄だった。
 ここにいる理由は聞くまでもない。

「一年生はやんちゃでいいね」

 人のいない方へ歩き出した圭斗の隣に並んで将也は言う。
 圭斗としてはできれば無視したかった。
 特に今は誰かと話したい気分ではないが、それで撒ける相手ではないことはわかる。
 彼は見ていたのだろう。だから、気持ちも察しているだろう。
 だが、タイミングが悪かったと思ったなら、とっくに帰っていたはずだ。
 大抵の人間なら一睨みでもすれば済むのに、全く通用しないのだ。

「僕のこと、わからないってことはないよね?」
「俺のこと、馬鹿にしてるんスか?」

 対面して言葉を交わしてから、それほど時間は経っていない。
 そして、ライバルになる可能性のある人間を忘れられるほど平和な頭でもない。
 この男は曲者だと圭斗の本能が告げている。

「司馬将也、と言っても僕は君の名前を聞いていなかったね」
「榊圭斗」

 今、この瞬間、二人は互いの名前を知って真にライバルになったのかもしれなかった。
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