Catch-22 ~悪魔は生贄がお好き~
「圭斗君、少し時間あるかな? もちろん、あるよね?」
「先輩に手を出すな的なライバル潰しだったら応じないっスけど。俺、今、かなり機嫌悪いんで」

 違うよ、と将也は笑ったが、半ば強制している時点で穏やかには思えない。
 すぐに教室に戻る気がないことをわかっているに違いないのだ。

「僕はお兄ちゃんとかお父さんとかみたいなものだからね。むしろ、逆だよ。君には頑張ってほしいと思ってるんだ」
「それも作戦っスか?」

 将也は爽やかな笑みを見せるが、安全な男だと思い込ませたいのかもしれない。
 圭斗は警戒を解く気はなかった。
 この男の本性はただのいい人ではないのだから。

「田端君と言い、君も僕を何だと思ってるんだろうね」

 参ったな、と彼は肩を竦める。信用がないらしいと。
 圭斗は簡単に中身が見えない人間を信用する男ではないし、信頼できるだけの時間もなかった。

「田端先輩と紗綾先輩で呼び方が違うのは何でっスかね? 司馬先輩」
「兄貴のがうつったんだよ。会ったでしょ? くたびれた刑事」
「じゃあ、そういうことにしておくっスよ」

 刑事の司馬将仁が彼の兄であることは聞いた。だが、それを理由にしても疑わしいのがこの男である。
 何を考えているのか本当によくわからないのだ。
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