Catch-22 ～悪魔は生贄がお好き～
　少し風が強いから、と将也が微笑んで、屋上へ続く扉の前に座った。
　彼は優しい。どこまでも優しい。どうして、そこまで優しくなれるのかと思うほどに。
　きっと自分はそこまでなれないだろうと紗綾は感じていた。

「弱みに付け込むようなことは嫌いなんだけど、田端君には十分付け込んでるって怒られるだろうね」

　将也は肩を竦めて笑う。

「この際、はっきりさせておこうと思って」

　そう言って、将也はひどく真剣な表情をした。
　元々、ふざけていたわけではないいが、それはあまりに真っ直ぐで、動けなくなるほどだった。

「俺は君が好きだよ。後輩の親友だからじゃないし、オカ研の生贄だからってわけでもない。俺にとって君は特別な女の子なんだよ」

　さらっと吐き出された言葉に紗綾はどう反応していいかわからない。
　彼は冗談など言わないだろう。だから、混乱してしまう。
　元々、話すことが得意というわけでもないのだ。内気で、友達も多かったわけではない。
　香澄と出会ったことも、今でも奇跡の巡り合わせのように思っている。

「田端君といる君を初めて見た時から、ずっとね」

　何と言うべきなのか。どんな顔をするべきなのか。
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