Catch-22 ~悪魔は生贄がお好き~
「もういいです。着きましたから。さようなら」

 最早、タイムリミットだった。気付けば、自宅が目の前だ。車がない。親はまだ帰ってきていないようだ。
 くるりと背を向ける。これ以上は粘っても無理だろう。
 彼の気持ちを聞くのは諦めた方がいいようだ。

 門を開けようとして、手が離れる。後ろに引っ張られる。
 段を踏み外して後ろに倒れるような、けれど、そんな段はここにはないはずだ。
 背中が受け止められ、気付く。回されている腕に。
 抱き締められている。

「い、いきなり何するんですか!?」

 本当に何を考えているかわからない。自惚れが強くなるということをこの男はわかっているのだろうか。

「安心しろ、誰もいない。どうせ、寂れてる」
「そういう問題じゃありません!」

 なんて失礼な。事実であってもあんまりだ。
 それに、いつ親が帰ってくるかもわからない。誰が通るのかも。
 近所の人に見られるのかもしれない。いくら本当に閑散としているとは言っても。
 紗綾は憤慨するが、十夜は素知らぬ顔だ。
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