人喰いについて
またしても綺麗に朝ごはんを平らげてくれた彼に少し清々しさを感じながら、那智は食器を下げようとする。
しかし紺は片付けようと手を伸ばしたその手をやんわりと止めた。
「これくらい片づけるよ、無銭飲食してるんだから」
「(自覚あったのね…)」
「ちょっと、そんな目で見ないでくれるかい」
まったく酷いなあ、那智は。
そう言いながらも嬉しそうに食器を片付ける彼の行動と表情は矛盾しているように思える。
…………そして彼のこの馴染み具合は何だろう。
最近好青年がこのあたりに引っ越してきたなんていう風に、近所の人が噂をしていたのを偶然聞いてしまったこともあるほどだ。
「それで?」
カチャ、と食器が軽くぶつかりあう音だけが部屋に響く中、彼は話を掘り起こす。
テレビの雑音だけでも流しておけばよかった、こんな静かな空間の中ではやけに紺の声が大きく聞こえてしまうのだ。
那智はベランダに足を放り出すと、ごろりとその場に寝ころんだ。
死んでいった両親がこの縁側を我が家に作ってくれてほんとにありがたいと思う。
ここなら流し台にいる彼の顔がちょうど見えない位置。
「……厭らしい男は嫌い」
「そんなに信用ない?俺」
「…あんなっ、耳元で囁くように言われたら誰だってそう思います」
思い出すだけでも彼の行動の大胆さが浮かぶ。
きっとああやって女を誑かすんだ、って、あの時ほど思ったことはない。