人喰いについて




(その日は随分、荒れていた夜だった気がする)



古崎那智(ふるさきなち)は、何時ものように誰もいない部屋を一瞥して、なにも考えずに部屋を出て、夜を歩いていた。……今日は運悪く雨の日。視界が鮮やかでなかった事だけが気がかりである。



ぴちゃりと水飛沫が足に付着した。
この調子じゃあ、明日の朝にはぐちゃぐちゃで歩きにくくなっているだろう。





ーーー両親が死んでから、この夜歩きは習慣化していた。


月を見たり、風を感じたり、雨に打たれてみたり。意味もなくそうやって歩いて、はたから見れば夢遊病患者の変人が空を楽しんでいるようにしか見えないと思う。







< 4 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop