人喰いについて
人と人喰いと
私は人喰いの青年と知り合った。
人喰いは、人口爆発が起きた私たちの世界ではそれはもう人類の救世主とも呼べる存在。
それを崇めない人は、一体この世界で何人いるのだろう。
「…ねえ、どこから突っ込めばいい?」
那智は心底ウンザリしたようにため息を漏らす。この不快感さの原因ともなる"彼"は、食していた。
ーーー人様の料理を。
「このオムライスすっごく美味しい!」
満足気に口を動かす彼に、私は身体中を走る怒りの震えを隠せずにいた。
ーーー落ち着け。落ち着くんだ、私。
(そもそも何故、彼は私の家で呑気に食事をしているの……)
それも人間である私ではなく、私という人間が作った料理を。
「ふう、ご馳走様。君はとても料理上手なんだね」
にこり、と見るものを凌駕する和やかな顔をする人喰い……『紺』。那智はその笑顔に諦めを感じ、米粒一つもなく平らげられた皿を受けとった。
キッチンの流し台に皿を戻したところで、自分が何をやっているのか本当に分からなくなった。
「(……私、喰べられなかった)」
というのも過去を遡ることほんの一時間前。
雨の中現れた彼は、自分が人喰いであることを私に告白した。嗚呼、私はこの赤い目をした彼に喰べられてしまうのか…と何処か冷静に悟り、目を閉じたところ、彼から発せられたのは余りにも呆気ない言葉であった。
"「それよりお腹空いたんだけどさ、君、料理できる?」"
……私はあの時ほど、酷い阿呆面を他人に晒した事はない。
(人ではないけど)