メモリ・ウェブスター
 禿鷹の記憶を抽出した後、私は雀の通う高校に向かった。空は黒い闇が支配し、心まで浸食してきそうだ。
 学校のセキュリティは万全で、セキュリティセンサーが縦横無尽に張り巡らされている。となるとここは正攻法。私はインターホンを鳴らした。
「はい」と男。
「並木先生ってまだ残ってます?もし残ってたら進路相談したいと思いまして。来年受験なもので」
 私は切迫感溢れる声音で言った。
「いいね。すっごくいいよ。僕はね、勉強なんて好きじゃなかったけど。大人になって思うんだ。勉強はした方がいい。僕に限っていえば今から何かしらを学ぼうとは思ってる。思っている段階だ。そこから前には進んでいない。勉強も人生も」 
 と男が捲し立てる。一気に捲し立てる効果的作用を私は体感した。
「おっしゃる通りだと思います。ところで並木先生は?」
「いけない、いけない。大人の悪い所だ。ついつい、余談に走ってしまう。ちょっと待っててくれ」
 男はノートらしきものを捲っているのだろう。パラパラとリズミカルな音が私の耳に届く。
「うぃす」と男は軽快な口調を示し、「職員室で試験問題を作っていると、日程表に刻まれている」と言った。
「中に入れて欲しい」
「どうしようかな」
 と男が悩む。
「話に感銘を受けた」
「よし、入れ。職員室は一階、だ」
 と私は雀の通う高校内に侵入できた。
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