メモリ・ウェブスター
雀が飛び回る
ローカルな電車を乗り継ぎ私は、『異端八町』という駅に辿り着いた。駅名とは裏腹に、活気のある町のようにだ。ストリートミュージシャンが楽器を搔き鳴らし、その目の前では紙芝居を披露している若者もいた。ストリートミュージシャンの曲はオリジナルであろうが、音程は所々はずれ、紙芝居に至っては声が聞こえない。私はやりきれない思いで一杯だった。
ファーストフードで待ち合わせということで私は喉が渇き、空腹を感じていたので、注文するこにした。
が、肩を叩かれた。叩く、というのは語弊がある。それは拳を握ったストレートの衝撃度合いだった。なので、私は前につんのめる。体勢を立て直し、後ろを振り返った。制服を着た女性がいた。
「いきなりなんだ」
と私の性格上の得意技である、冷静、を誇示した。
「うわ、マジ!言われた通りじゃん。全然冷静。マジ冷静なんだけど」と女性。
「言われた通り?」
「だって、『メモリーギフト』の夢風ヒカル君でしょ?」
女性は屈託のない笑みを浮かべた。それは第一印象を覆すほどに好感の持てる笑顔だった。
「ということは」と私が言う前に、
「そうよ。依頼人の雀よ。よろしくね」と手を差し出してきた。
そうだ。依頼人の名前は、スズメ、だ。こんな奇妙な名前がこの世に存在するのか、と私は思い、依頼書を何度も見直したのを覚えている。
確認。
目の前にいる女性の容姿を確認する。顔写真は金髪だったが、今はセミロングの黒髪になっている。トリートメントが効いているのか、潤いをキープしている印象がある。パサつきを極限まで抑えたチーズケーキのように。瞬きシャッターの開閉がわかりやすい大きい目。ぽってりとした唇は男を引き寄せそうだ。女性に興味を抱く歳頃の男なら、まずは目で追うことだろう。だが、目で追うだけだ。男というのは力はあるが、大概度胸がない。残念なことに。
「ねえ、あなた、さっきから、じろじろ見すぎ、変態仮面」
仮面、は排除してもいいのではないか、と私は指摘しようとしたが、ファーストフード内で論争を巻き起こしてもろくなことはない。
事実、「お客さん!背中に語りかける為に店員やってるんじゃないんですよ。注文を取らないと、このご時世生きてはいけないんですよ。夢を買うつもりで、何か注文してください」と店員の声が店内に響き渡る。周囲から、クスクス、だの、やれやれ、だの、男は背中だよ、という雑音が私の耳に届く。届けるのはいいことだ。私も記憶を届けている。
「まずは何か注文しよう。そして話を聞かせてもらいたい」
私は言った。
「おごりね」
当然のように雀は言った。可愛げもなければ、おごられることに慣れている言い方とタイミングだった。いや、この場の雰囲気がそうさせたのかもしれない。
ファーストフードで待ち合わせということで私は喉が渇き、空腹を感じていたので、注文するこにした。
が、肩を叩かれた。叩く、というのは語弊がある。それは拳を握ったストレートの衝撃度合いだった。なので、私は前につんのめる。体勢を立て直し、後ろを振り返った。制服を着た女性がいた。
「いきなりなんだ」
と私の性格上の得意技である、冷静、を誇示した。
「うわ、マジ!言われた通りじゃん。全然冷静。マジ冷静なんだけど」と女性。
「言われた通り?」
「だって、『メモリーギフト』の夢風ヒカル君でしょ?」
女性は屈託のない笑みを浮かべた。それは第一印象を覆すほどに好感の持てる笑顔だった。
「ということは」と私が言う前に、
「そうよ。依頼人の雀よ。よろしくね」と手を差し出してきた。
そうだ。依頼人の名前は、スズメ、だ。こんな奇妙な名前がこの世に存在するのか、と私は思い、依頼書を何度も見直したのを覚えている。
確認。
目の前にいる女性の容姿を確認する。顔写真は金髪だったが、今はセミロングの黒髪になっている。トリートメントが効いているのか、潤いをキープしている印象がある。パサつきを極限まで抑えたチーズケーキのように。瞬きシャッターの開閉がわかりやすい大きい目。ぽってりとした唇は男を引き寄せそうだ。女性に興味を抱く歳頃の男なら、まずは目で追うことだろう。だが、目で追うだけだ。男というのは力はあるが、大概度胸がない。残念なことに。
「ねえ、あなた、さっきから、じろじろ見すぎ、変態仮面」
仮面、は排除してもいいのではないか、と私は指摘しようとしたが、ファーストフード内で論争を巻き起こしてもろくなことはない。
事実、「お客さん!背中に語りかける為に店員やってるんじゃないんですよ。注文を取らないと、このご時世生きてはいけないんですよ。夢を買うつもりで、何か注文してください」と店員の声が店内に響き渡る。周囲から、クスクス、だの、やれやれ、だの、男は背中だよ、という雑音が私の耳に届く。届けるのはいいことだ。私も記憶を届けている。
「まずは何か注文しよう。そして話を聞かせてもらいたい」
私は言った。
「おごりね」
当然のように雀は言った。可愛げもなければ、おごられることに慣れている言い方とタイミングだった。いや、この場の雰囲気がそうさせたのかもしれない。