【完】キセキ~君に恋した時間~
───『みーちゃん』。
彼女の形の良い唇に紡がれたそれは、ま
るでタンスの奥底で眠っていた洋服を出
すような感覚で。
すごく、懐かしくて。
一気に甦った、もう十年前の出来事が脳
裏を駆け巡った。
「……倉科、美海?」
ポロリ、無意識にそう呟けば、彼女はニ
ンマリと笑って頷いた。
倉科美海(くらしなみみ)。
岩手にいた時の俺の幼なじみ。あの頃の
美海は、すごく気が強くて、女のくせに
女じゃないみたいで……。
俺はいつも……って、ん?
「……泣きついたんじゃなくて、俺は泣
かされたんだろ?」
そう。俺はいつも泣かされた。
泣きついて、は認識が違うぞ、とちょっ
と睨めば、呆れたような表情を美海は浮
かべた。
「カエルがランドセルに入れられたくら
いで、泣き出すのがおかしいの。男のく
せに」