【完】キセキ~君に恋した時間~
第9話 おかえり
ひらり、と視界に淡い桃色が散る。
そう言えば、舞う途中で掴めたら、願い
事が叶うとか、幸せになるとか……そん
なジンクスがあったけ、と思い出す。
ジンクスなんて所詮、なんの信憑性もな
いもので、気付け程度のもの。これだっ
て予測不能な風に吹かれて、掴むのが難
しいから、という確率の問題で。
だけど、ただの気付けでも良いから、そ
んな子供騙しに、騙されてみたくなって
、そっと腕を伸ばす。
秒速五センチで落ちるという桜の花弁を
、手のひらを伸ばして、掴もうとした瞬
間。
「とっおるー!」
背中に強い衝撃を受けて、前につんのめ
り、淡い桃色は、儚く俺から通りざかっ
た。
それだけでどうしようもなく切なくなる
なんて、相当心が参ってるらしい。
ちらり、と背後を睨めば、悪びれもなさ
そうにニコニコと笑う磯部が俺の背中に
抱きついていた。
「痛いんだけど……」
「あっは、ごっめーん!そんな怒んなよ
もー!!」