【完】キセキ~君に恋した時間~
わーわーとわめき散らす磯部を宥めて、
アパートが見えてきたときには心労でお
し潰されそうだった。
今日はまた一段と煩かったな、アイツ。
そんな風に思いながらそっとため息をつ
き、ドアの前まで行った瞬間(とき)。
さあ、と風が吹いて。
黒髪が、目の前で靡いた。
「美海……」
そう呟けば、壁に凭れていた目の前の彼
女は、相変わらずの澄まし顔で、その薄
いピンク色の唇を開いた。
「遅い」
いつかの日と、同じような台詞。
だけどなにもかもが違う、この状況。
「……美海……お前……」
「とりあえず中に入れてくれない?」