【完】キセキ~君に恋した時間~
美海の中でも、俺の父さんはそれなりに
大きな存在だったんだと思う。
その証拠に、美海は父さんを好き、どこ
ろか、崇拝さえもしていたのだから。─
──とはいえ、その息子である俺には、
崇拝のすの字も見つからなかったが。
そんな崇拝している父さんに、「会いた
かった」と思うのは可笑しい事でもない
から、俺はそれ以上何も言えなかった。
俺はヘタレなんだ。
だから彼女が何を思って、その心にどん
な傷を持っているか知っていても、それ
を救ってやりたいと、願っていたとして
も。
行動にまでは、移せないんだ。
俺は、開いていた右手に、やるせなさを
閉じ込めるように、キツく、拳を握った
。
父さんが帰宅したのは、9時を過ぎてか
らだった。
美海に、時間平気なのか、と訊こうとし
たが、そもそも美海に帰る場所なんて東
京(ここ)には無い。