【完】キセキ~君に恋した時間~
ものすごい早さで動いた栄生くんが、ま
た俺の前に立ちはだかっていた。
「もうちょっと考えてみてよ」
「いや……。だって俺、まず経験ないで
すし。足引っ張るだけなんで、ほんと」
「そんなことない!絶対に素質ある!」
素質……って。
「……取り敢えず、他を当たってくださ
い」
ちょっと悪いな、とは思いながらもそう
苦笑いしてその場を去った。
ていうかこんな暑いのにあの体育館に行
くなんて……。
「ただの自殺行為だろ……」
そうぼやいた俺に賛同するように、蝉が
鳴いていた。
俺の家は、学校から徒歩15分くらいの
所にあるアパート。
母さんは小さい時に死んで、今は父さん
と二人暮らし。