トワイライト

　　そして１７歳の時に伯父（おじ）の匡史（まさふみ）に言われた『それは瞳子、ひいては近い将来君のご主人になる崇晃君をも否定する事にもなるんだからね』と言うあの言葉がかすかに脳裏をよぎった。なる程あの時の言葉はこう言う事だったのかと、瞳子は今更ながらに伯父のあの言葉の重みに対して驚きを通り越して驚愕（きょうがく）した。




　　では私はあの時理子に対してとても酷（ひど）く卑劣（ひれつ）で取り返しのつかない事をしてしまったんだわ。確かに１７歳の時点で私と崇晃は、結婚の約束を取り交わしていた。それなのに私は崇晃の心が理子に傾くのを阻止（そし）する事だけに気を取られていて、回りが全く見えていなかった。その時瞳子は改めて過去に自分が理子にした事への深い後悔の念が芽生えた。そして崇晃から話を聞いた後、瞳子は窓を開けて星空を眺めながら、ボンヤリと理子の事を考えていた。




　　理子には子供が授かったと言う。ではその子供はあの時に自分が仕向けて、理子が男性達にレイプされた時に出来た子供なのか？やがてそんな疑問が益々瞳子の頭の中でグルグルと回り始めた。が、しかし瞳子は自分が理子にした事への後悔は、ついさっきまでは殆どと言って良いほどなかった。なのに崇晃の口から自分は施設の出身だと聞かされて、瞳子の頭の中は次第にどうしようもない不安感に襲われた。そして更に瞳子はもしかして自分は崇晃が施設育ちだった事を事前に知っていたならば、理子に対してあそこまで敵対視する事もなく、あるいは今現在友達として理子と交流出来ていたんだろうか？




　　と自分の心にそっと問いかけてみた。そしてそんな事を考えていたら過去に自分が理子に対してした事が、どんなにか卑劣な行為だったのかと言う事を考えて次第に瞳子の心の中はやるせない気持ちで一杯になった。瞳子は思う。確かに自分は望みが叶い崇晃と結婚出来て、誰よりも幸せなはずだった。それなのに瞳子の心の中は、何故か？日々満たされてはいなかったのだ。そしてついさっき崇晃本人の口から聞かされた『実は自分は愛人の息子で、幼い頃施設で育ったと言う真実』を聞いて、瞳子の日々満たされていなかった心の空虚感は更に拍車がかかった。