トワイライト
  そんな美有と有達の和(なご)やかな食事風景の中で、治子は自分が癌に冒されていると知った日から、ずっと考えてきた事をこの時改めて思い出していた。人が年を重ね長生きをすると言う事は、自分自身の欲望を極めると言う事ではなく、多分人を少しでも幸せな方向に導いてやれるそんな存在になる事なのでは?と。



  ではこれから自分が迎えるであろう死の間際にするべき事はなんなのか?と治子は改めて考えてみた。そして治子はようやく一つの真実に辿り着いた。それは自分のかつての親友である澪が生前望んで叶えられなかった『家族の団欒(だんらん)と絆』を作るきっかけをせめて有を通して手助けをしてあげ、そして少なくとも母親の理子と双子の一方である有の心の隙間を少しでも埋めてあげる事こそが、今現在の自分の責務なのだと……。



  ちなみに自分が病気になると『人生観』が変わると言う。今まで自分の事しか考えていなかった人達でさえ自分が生死の淵(ふし)を彷徨(さまよ)う事で急に廻りに目を向けるようになり、命の尊さに目覚めるのだ。そして治子も例外ではなかった。




  治子は長く生きた者が率先してさまざまな事を、若い者達に行動でもって示してゆく事でその自分の魂が確実に後に続く者達に、受け継がれてゆくものだと言う事を自分の病を通してつくづく思い知ったのだ。ちなみに人が長く生きると言う事はその人にはまだ周りの者達からなんらかを学ぶか、あるいは自ら周りの人達になんらかの指針を示す為の人生が残されていると言う事でもあるのだとも治子はしみじみと感じていた。
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