トワイライト
「澪は後年一人暮らしをしておりましたから、その時誰も身寄りがありませんでした。だから私が澪の遺骨(いこつ)を引き取り、私の主人の承諾を得て如月家のお墓に手厚く葬(ほうむ)りさせて頂きました。なので理子さんどうかせめて澪が眠っているお墓に手を合わせて、澪の冥福(めいふく)を祈ってあげて下さいね」
  と治子は言った。





「如月さんはそんなにも母の事を気づかい親切にして下さっていたのですね。ありがとうございます」
  と言った理子の目からは次第に涙が止めどなく溢(あふ)れ、嗚咽(おえつ)が漏(も)れた。




「はい。これが澪から預かった手紙よ。澪が亡くなってからはあなたが何処にいるのかが解らず仕舞いだったもので、ずっと私が今日まで大事に保管をしてました。こうしてあなたに会えて澪からの手紙をあなたに手渡す事が出来て、やっと私肩の荷が下りた気がするわ」
  と治子は言った。




「ありがとうございます」
  と言って理子はその手紙を治子から受け取り、そして理子は早速治子から手渡された澪からの手紙をその場で開封して読んでみると、その手紙には自分が母親として理子に対して充分な愛情を注ぐ事が出来ずに、この世を去る事への無念が書かれていて、手紙の最後には『あなたを思えば、ズキリとこの胸に食い込む、言い知れない程の、心の痛み』とという短い短詩で括(くく)られていた。ちなみに理子は母親澪が書いた手紙を読んでいて、思わず涙が頬を伝い流れた。




  そしてその手紙の文面から理子は澪の母親としての不器用なまでの理子に対する愛情を、ヒシヒシと感じ取った。
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