ワイン恋物語
無意識だったのか。

はたまた、自分の意思だったのか。

わたしは唇を動かしていた。

唇を動かして話したことは、婚約者に逃げられたあの日のことだった。

「――そうか…。

そうだったんだ…」

根本さんは呟くように言った。

「――わたし…」

「もういいよ」

根本さんはわたしを抱きしめた。

「話してくれて、ありがとう。

つらかったのに、話してくれてありがとう」

強く抱きしめられる。

それだけのことなのに、わたしの目からまた涙がこぼれた。
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