死使
私はシシの指の先を観た。おそらく制服を来た私がふらふらとした足取りで、遮断された踏切に向かって歩いている。踏切前で立ち止まり、辺りを見回している。やけに短いスカートをシシにも見られていると思うと恥ずかしい。というか現時点も制服だし。
 もしかしてパンツ見た?それも今日に限ってパンツは水玉。最悪。
 そんな呑気なことを言ってられない状況が大型画面では展開していた。私と思しき、というか私が踏切をくぐり、線路に向かおうとしている。右からは電車が黄色い目を閃光にしながら猛突進してくる。嘘でしょ、このままじゃ、電車に轢かれる。画面は無音声だが、今にも、ワオーンという汽笛的な音が聞こえてきそうだ。画面の中の私がアップで映し出される。なんだか意図的に筋肉質な太腿をクローズアップされているようでシシを睨む。が、指を開いたり縮ませたりして画面の微調整をしている。その無表情で操っている姿は傀儡師にも見えなくはない。そしてシシの指が止まる。
 その時だった。
 電車と私の距離およそ数メートルというところで、空中から青白い光が滑降し、私を掴み背中に回した。それが目の前にいるシシだった。あんぐりと私は口を開ける。その表情をシシに見られ私は口を閉じる。
「助けてくれたんだ。ありがとう」
 私はシシに対し素直に言った。その言葉を受けても彼は無表情でまた指をパチンと鳴らし無数の正方形のパネル画面に戻す。
「ということだ。僕はサヤが死ぬのは惜しいと思っている。まだこれといった恋もしていなし、頭も悪くはない。なにより重要なのは、心やさしい人物だということだ」
 モテる男って口達者。それ、私の中での理論。最初に恋もしてない、とダークな一面を覗かせといて、最後には持ち上げる。騙されるな、騙されるな、サヤ。
「その手には乗らないわよ」
「君は今や疑心暗鬼だから仕方ない。しかしこれだけは覚えといて欲しい。生きるべきだ。辛いと感じるなら辛いままでいい。無理に変える必要はない。その辛さの先に希望がある。負けるな。そしてその辛さを受け入れろ。負けるな。君を見ている人達もいる。必ず。嘆くな。孤独に生きてもいい。その孤独が別の友を引き寄せる。類は友を呼ぶっていうだろう」
「そんな簡単にいくかな?」
 私には自身がない。
「案外、悩みというものはちっぽけなものさ」
 シシはしれっと言う。
 私はパネル画面に視線を戻す。異変に気づいた。なんだか若い女性がナイフを持った男に追いかけられている。
「ねえ。あれって状況的にまずくない」私は画面に指を差す。
 シシは私の指の先を見て、「まずいね」とだけ言った。
「私を助けたように、救いなさいよ」
 なぜか命令口調に驚く私。
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