死使

死使、空へ

「ねえ。もう会えないの？」
　私は訊いた。見上げた空は群青色の空が広がっていた。飛行機雲がくっきりと浮かび上がってる。
「会いたければ、また死のうとすればいい。何度でも救ってやる」
　シシは冗談とも本気ともつかない声音で言う。それもこれも無表情だから。この表情を崩せるのは私しかいないと自負する。
　でも、どうやって？
「罰受けるんでしょ？ごめんね」
「いや。サヤが気にすることではない。ルールを変えるためにやったことだ」
　ふーん、と私は言い、「その背中に乗せてる女の子が羨ましい。私ももう一回、シシの背中に乗りたい」
　私の心臓はバクバク。どうした、私。こんな強気で積極的だったっけ。
「それは無理だな。定員は一名だから」
「なら、ちょっと私に目線合わせてくれない」
「なぜ？」
「いいから」
　しぶしぶシシは腰を屈めた。その一瞬の隙をついて、私は彼の唇を奪う。甘い唇。私とシシの唇が触れ合う。私は静かに目を開ける。
　やっぱり。
　シシの目が丸くなり、瞬きが連打されていた。ゆっくりとお互いの唇が離れる。その際にお互いの唾液が糸を引いた。赤い糸。
「私の勝ちね。ファーストキスなんだから、一生大事にしまう。それが私とシシを繋ぐ」
　私は言った。
「やはり、君は面白い」
　彼は笑みを見せた。綺麗な歯並びを見せながら。それが初めての笑顔。
　シシは群青色の空に向かい、飛んだ。青白い透明な翼を広げ、上へ、また上へ。私のファーストキスは、死の使い、シシ。
　私は空に向かい手を振った。何度も、何度も、そして心に誓う。生きる、と。