吸血鬼の箱庭
見たことのない天井。
眩しい。
うるさい。
それ以外の感覚はない。
恐らく俺に残された感覚は聴覚と視覚だけだ。
身体全体の感覚がなく、匂いもなにもない。
あの花村とかいう男に何を嗅がされたのだろう。
俺は多分仰向きの体勢で寝転がっていると思われる。
ゆっくり瞬きをして、息を吐く。
「あ。起きましたよー!ナイトー!!」
聞き覚えのある声。
「やっと起きやがったか。クソ餓鬼。」
また違うところから聞こえる棘のある言葉。
するといきなり視界にあの白髪の餓鬼が入ってきた。
「具合はどうだ?」
「あー。駄目ですよ!あと10分もすれば全部の感覚が戻りますからもうしばしお待ちを!!」
どういうことだ…?
「えっとねー。凛にはうちの花の胞子を身体に侵入させたんですよ。」
そう言って花村が紫色とピンク色の混ざった毒々しい花を手に取る。
「僕たちみたいな“人間じゃない奴”は触ってもぜんっぜん大丈夫なんですけどね。」
人間じゃない?
話を聞けば聞くほど疑問が浮かび、混乱した。
「この花は"オトメバナ"って言ってですね、数時間、人間の感覚全てを奪うんです。」
「そんなうちの花むやみやたらに使うなよ。」
花村はそんな餓鬼の警告など無視して尚も話し続ける。
「あ。そろそろ口も動くと思いますよ?」
そう言われたので、ゆっくり口を開けてみる。
「声出してみてください。」
喉を上下に動かし、声帯を震わせる。
「あーあー」
掠れた自分の声がした。
「ほらね。」
花村が優しくて微笑んでくる。
先ほどの冷徹な笑みはどこへ消えたのだろうか。
「ここはどこ?お前らはなに?出口はどこ?俺を突き落としたのは誰…」
「もー!後で説明しますから!今はそこで鉛みたいに寝っ転がっててください!!」
俺の声を遮るように、花村が言葉を重ねる。
「直ぐに戻りますから……」
そう花村が言った途端、身体にこもっていた力が抜け、頭からつま先までの全ての感覚が蘇った。