吸血鬼の箱庭
「美しい瞳だな。」
「えぇ。」
小春日和。
雪がしんしんと降り続ける季節がもう始まりを告げるであろう頃、海岸のすぐそばに建たれた小さな古城では二人の男女が幸せに包まれていた。
狼人間の一族の王族、プリムラとトレニアは大切そうに二人の赤子を抱きかかえていた。
一人の赤子は、白銀の髪に夕焼け空のように真っ赤な瞳の持ち主であり、その赤子と対照的に、もう一人の赤子は、漆黒の髪に海のように真っ青な瞳の持ち主だった。
「この子達がこれからの一族を背負うのよ……」
プリムラの艶やかな金色の髪が揺れる。
「神の子だからな。」
昨晩、王族の人間のみが立ち入りを許可されている花園にある神が宿っていると代々伝えられているエデンの木で、先ほどの二人の赤子がポツンと横たわっていたのだ。
1000年に一度、狼の神、デンスとイブの間に産まれる“神の子”__
神の子はエデンの木の元に産まれ、一族に大きな影響をもたらす重要な人物になるのだ。
無論、神の子は王族の人間に育てられ、成人するとすぐに王の座につく。
今までの歴史から考えると、赤子が二人というのは、異例の出来事だった。
「どちらを王にするの?」
プリムラが呟く。
トレニアは、顎に手を添え、首を傾げた。
「優秀な方を王にすればいいだろう。王になれなかった方も“神の子”という名だけで不自由はしないだろう。」
プリムラがはぁ、と、ため息を吐きながら赤子の頭を撫でた。
「そんな曖昧な考えじゃ駄目ですよ。
吸血鬼の一族は神の子の未来を大切に考えているんですよ?」
「あうあう。」と、無邪気に声をあげる赤子にプリムラが微笑みかける。
「吸血鬼の方はいつ産まれたんだ?」
そんなプリムラの言葉を無視して、トレニアは質問を投げかける。
「それが1000年経ったのにまだイブが産まないそうなんですよ…心配だわ……」
「そうなのか?」
「えぇ。ご報告と一緒に話を聞きましょうか。」
「そうだな。」
二人は西の方角に建っている城に暮らす別の一族の夫婦に会いに行くことに決めた。