吸血鬼の箱庭
「…それから俺とあいつは城の庭へ抜けた。」
今でも、鮮明に覚えているのだろうか、どこか一点を虚ろな目で見つめ、ゆっくりと語る。
隣りでは、辛そうに顔を顰める花村が、その場にしゃがみこんでいた。
「やっと助かる。逃げられるって思ったその時だ……
あいつが俺に向かってナイフを向けて来たんだ。」
信頼していた最後の味方にさえも裏切られた、その時のナイトの気持ちはどんなものだったのだろうか。
絶望?
落胆?
後悔?
きっと、言葉では表せないほどだっただろう。
「“お前は母さんを殺した醜い化け物だ。母さんの仇は俺がとる。”
そう怒鳴り散らして俺の懐を狙ってきやがった…」
「その時に…僕の兄がナイトを助けたんです……」
花村が呟く。
「んで、そこからこれは吸血鬼の城にいって、無事保護されたって訳よ。
はい、おしまい。」
きっと、この事件は誰も悪くない。
運命の悲劇なのだ。
ナイトは、はぁ、と息を吐くと、俺の前でしゃがみこんだ。
「その事件をきっかけに、両一族の仲は急激に悪くなり、互いの一族を傷つけ合うようになった。」
「ある日、ナイトの命が狙われたのです。
“神の子”は両一族の“心臓”とも言える重要な人物。
殺して一族を滅ぼすことが目的だったのでしょう。」
「で?どうなったん?」
目の前にナイトガいる時点で無事だったことは分かるのだが、取り敢えず聞いておく。
「私の兄が死にました。
他にもナイトに仕える者のほとんどが命を落としました。
…そこで、王はナイトを幽閉することを思いついたのです。」
花村が立ち上がり、外の花園を眺め始めた。
「幽閉って…」
「だが、幽閉してしまったら俺に一族を継げる力が身につかねぇだろ?だから、“あっち側”の神の子も探しながらここの箱庭に身を隠してるんだ。」
中々話の内容がややこしくなってきた。
「要は、ナイトさんと花村さんはここに隠れながら、その、敵の“メア”って奴を探してるってこと?」
「そうだ。」
ナイトは俺の頬をつねると、ニコッと微笑んだ。
「それであっち側が強力な野郎を味方につけたそうなんだ。
だから、俺らも強力“そうな”助っ人をここに連れてきた訳よ。」
「もしかして…その助っ人って…」
二人がニヤリと笑う。
「柴田凛。あんただ。」