吸血鬼の箱庭
……ん?
いやいやいやいや。
「…俺の話…聞いてました?」
この目の前の野郎は馬鹿なのだろうか。
いや、馬鹿だ。
これには、流石の花村も苦笑いを浮かべている。
だが、口出しをする気はサラサラないらしく、手をぶらんと下に降ろしてこちらを眺めている。
「ちゃんと聞いたぞ?」
「…あぁ。そんならおれを家に帰して下さい。」
ナイトは眉をピクリと動かすと顔を顰めた。
「それは出来ない。お前に全てを話したからな。」
「ふざけてる?」
「ふざけてなどいない。」
俺の平和で、幸せな高校生活が!
こんな痛いファンタジー軍団に奪われるのか!?
「ナイト…さんと契約したら俺はどうなるんですか?」
「少しの間半分吸血鬼になるだけだ。」
「“だけ”!?そんな問題じゃないんですよ!」
思わず手が出て、ナイトの胸ぐらを掴む。
ナイトは俺はより小柄なので、ナイトが少し背伸びをするようなかたちになっている。
「…桜田修。」
ナイトが斜め下に視線を逸らしながら呟く。
「え……」
時が止まったような気がした。
「修ちゃんがどうしたん!?」
慌ててナイトから離れる。
「…狼人間に攫われたって噂や。」
「嘘やろ……」
あの後、修ちゃんを引き止めておけば…
酷く後悔をする。
「ほんまに?」
「僕、“外”に行った時見ましたよ。黒髪のつり目の男の子ですよね?ナイトくらい小柄だったから覚えてたんですよ。
……その子が、狼人間の連中に捕まってました…」
後ろで花村が悲しげに告げる。
「修ちゃん……」
帰る場所が無くなった気がした。
「なんで…なんで助けてくれへんかったんよ!」
今度は花村の胸ぐらを掴み、詰め寄る。
「ごめんなさいっ…!向こうは8匹もいたので…へぼいコウモリ1羽じゃどうにもならないと判断し、ナイトに知らせました…」
花村が言った言葉は正論だ。
だが、訳の分からない連中に捕まり、怯えている修ちゃんを想像すると、悔しくて仕方なかった。
「よくあいつらは無差別に人間を攫っては“喰う”んだよ。
このまま野放しにしちゃいけねぇと思って、桜田修の元兄のお前を連れ込んだ。強力な助っ人になると思ってよ。」
修ちゃんを“喰う”____?
そんなこと、許さない。
「まだ修ちゃんは喰われてないん?」
「おそらくな。狼人間はある程度の人間を集めてから喰う。
後…2週間程は余裕はあるんじゃねぇか?」
修ちゃんが関わっているなら話は別だ。
____やるしかない!
「…ええよ。」
「あ?」
「契約したるわ!」
ナイトの手からナイフを奪い取り、手の甲を斬りつける。
「あんたの血を、俺に下さい。」