吸血鬼の箱庭
真実と嘘
変化と疑い
「凛?どうした?」
「あ…いや、ちょっと…影行かへん?」
駄目だ。
焼ける。焦げる。溶ける。
俺は新たに出来た体の“異常”に苦しめられていた。
「ふぅ……」
吸血鬼のナイトと契約を交わして1週間____
“半分吸血鬼”というなんとも中途半端な体になり、俺は多大な迷惑を受けている。
半分だから、昼も夜も活動出来るが、日光が辛い。
肌がジリジリ焼けるような感覚に陥る。
後は、“人の血を飲まなければならないこと”。
ずっと飲まないでおくと、餓死するらしい。
そして、見習いの俺が今していることは二つ。
一つはいつも通りに暮らし、身の回りに狼人間と思われる野郎がいないか確認する。
要はパトロールだ。
そしてもう一つは二日に一度、あの公園から箱庭に向かい、ナイトと花村に吸血鬼について学ぶこと。
今、ふと思ったのだが…
これって吸血鬼にならなくても出来ることじゃない?
まんまと騙された感じがえげつなくする。
とにかく、今日の夜ナイトに抗議してみよう。
そんなことを考えながら歩く、帰り道。
「凛!こっち見てぇや!」
ぐいっ!と制服のネクタイを掴まれる。
「苦しっ…し…死ぬっ…」
「さっきからなに?日陰ばっか!おばちゃんかっ!」
隣りでぎゃーぎゃー騒ぐ鬼が一匹。
「あー、ごめん。」
「ほんまに。」
隣りにいるのは、赤川優希。
俺の彼女。
髪型は肩まであるセミロングで、クリクリっとしたまん丸な目。
薄ピンクの唇はやけに色っぽい。
身長はかなり小さく、150センチいっているかさえ不明である。
「そうそう、今度の日曜なぁ夏祭りあるんよぉ。一緒に行かへん?」
優希が、俺の腕に手を回しながら言ってくる。
今度の日曜日?
なにか大切な用事があった気がする。
なんだったけなぁと、思い出していると、またネクタイを引っ張られた。
「いだだだだ!」
「空いてんの!?」
相変わらず優希はせっかちだ。
優希とは5月頃から付き合い出していて、結構学校でも有名なカップルだったりする。
元気で明るい優希は友達が多く、みんなに親しまれている。
「で!空いてんの!?」
優希が腕を組んで、頬を膨らませる。
今度の日曜日…
今度の日曜日…
「あぁ!」
「どうしたん?」
いきなり大声を上げた俺に、驚いて優希が目をパチクリ瞬かせている。
「ごめん…めっっちゃ大事な用事入ってた…ほんまごめん!」
両手を合わせて、頭を下げる。
「そんな…無理やったら全然大丈夫やし…気にせんといて。」
「ほんまごめんなぁ…」
今度の日曜日は、とてもとても重要な日だ。
修ちゃん救出計画の実行日だ。
何があっても予定は変えない。
修ちゃんが攫われてから、無論のこと家にも帰っておらず、学校にもいない。
教師達や、周りの大人達が流石に心配して、捜査願を提出しようか迷っているらしい。
俺達が早く見つけないと。
修ちゃんが喰われてしまう!
急に冷や汗がドッと出てきた。
「なんか…最近の凛…変やね…」
ポツリと優希がなにかを呟いた。
うまく聞き取ることが出来ず、思わず振り返る。
「え?」
「ううん!なんもない!…ほらっ!信号青やで!前進前進!」
ポカポカと背中を叩いてくるので、重い足を気だるそうに前に出す。
平凡な高校生活はこれからもしばらく続きそうだ。