吸血鬼の箱庭
つり目とたれ目
「ナイトさん。」
「なんだよ?」
やっと慣れ始めた公園の穴からこの箱庭までの道のりに、ホッと息を吐く。
「狼人間には、ここに箱庭があるってバレているんですか?」
「んなわけねぇだろ。」
ナイトが咥えていた煙草を、灰皿にすり潰す。
「ただ、俺達は何処かの箱庭に身を隠していることはバレている。」
「そうなんや…」
ナイトは顔を顰めながら、着けていた手袋を外した。
「もし入って来やがったとしても、逃がしはしねぇ。ここで始末して、情報が回るのを最低限に抑える。」
「あぁ…」
会話が途切れる。
沈黙が続き、とても気まずい雰囲気になってしまう。
やっぱり花村がいないと、全く会話が続かない。
「…あの…俺今日…人の血を襲って飲もうとしてたんです…」
「なんだと?」
ナイトが驚いた様子で、こちらを見てくる。
目を見開き、眉間に皺を幾つも刻んでいる。
「飲みたくて飲みたくて…なんか……もう一人の“化け物としての自分”を見た気がしたんですよね…」
「化け物などではない。俺達の一族は、誇り高い一族だ。」
ナイトは俺の瞳から視線を逸らし、ぼーっと窓から花を眺めはじめた。
ナイトの左眉がピクピクと、痙攣している。
恐らく苛立っているのだろう。
「あと……」
「まとめて話せよ…」
「修ちゃんは助かるんでしょうか?」
俺があの時、先に帰ろうとする修ちゃんの腕を掴んで、なにか一言でも言えば修ちゃんが辛い目に遭うことはなかったのに。
「うん…修ちゃん待っとく。」
俺はそれだけを修ちゃんに言うと、スタスタと歩き出し、家に帰ろうとしたのだ。
「なんかあった?」
「一緒に帰ろう。」
そんな言葉が咄嗟に頭に浮かばなかった。キャパシティのない、デカイだけの脳みそに苛立った。
「俺に聞いても分からねぇ。だが、桜田修を助けられるのは夢と、俺と、お前だけだ。」
「……はい。」
涙で滲んできた目をこすり、前を向く。
「ただいまー!あれ?二人でなに話してたんですか?」
すると、小屋に花村がやってきた。
やはり赤色の薔薇の花束を抱えている。
「遅いぞ。てめぇ。」
ギロリとナイトが花村を睨みつける。
「わー怖い怖い。これ花屋さんで見つけまして。小屋に飾ろうかなぁって。」
花村が花瓶かなにかを探して小屋をウロウロする。
「んなでけぇ花束目障りだ。」
ナイトが花村に聞こえるように舌打ちをする。
今思えば、この二人の関係も気になる。
なんで、弱そうな花村とナイトは一緒にいるのだろう?
なんで、この小屋には二人しかいないのだろう?
仲間の吸血鬼はどこにいるのだろう?
契約を結んだはいいが、今思えば謎だらけだ。
「はぁ…」
思わずため息を吐く。
「…穴の近くに誰かいました。おそらく狼人間です。」
……え?